昔、ある所にたいそうな金持ちが住んでいた。彼はけちで欲張りだったので、まるで貧乏人のような生活をしていた。彼の家は、よそに比べてとりわけみすぼらしかった。
しかし、まわりがあまりに喧しくいうので、ようやく新しい家をつくることにした。
家を建てるのに多くの人夫を雇った。しかし、夕方にはその人夫たちにたくさんの日当をやらなくてはならなかったので、金持ちはとても嫌な気分になった。
「夕方が来るたびに金が出ていくのは、まったく面白くない。」
金持ちはひとりつぶやいた
「なんてこった。太陽さえ遅くまで沈まないでいてくれたらなあ。そうしたら俺の家の仕事がはかどって、仕事がはかどったら家が早くできて、家が早くできたら払う金は少しで済むのに。」
しかし、どんなに彼が思いめぐらせようとも、時が来れば日は昇り、時が来れば日は沈んだ。そして夕方になると、人夫たちはまた日当を要求した。
しだいに、金持ちは夜となく昼となく思い悩むようになり、イライラして、じっとしていられなくなってきた。
町から遠く離れたところに一人の行者が住んでいた。行者は人々を苦しみから救っていた。行者の住まいには、悩みや苦しみを聞いてもらうために、いつも多くの人が集まってきていた。ある日、とうとう金持ちも行者の所へ行くことにした。
金持ちが来たのを見て、行者は尋ねた。
「さあ、おまえの悩みを言ってごらんなさい。私の法力で取り除いてあげよう。」
金持ちは喜んで言った。
「行者様、私は今、家を建てています。でも人夫達はなまくらです。ちっとも仕事をしないうちに夕方になって、丸一日分の日当を払わねばなりません。どうしたものでしょう。今より少し遅くまで太陽が沈まないでいたら、仕事は少しははかどるでしょうに。行者様、この悩みをなんとかして下さい。私はほとほと困っているのです。」
金持ちのおかしな話を聞いて笑いがこみ上げてきたが、その笑いをかみ殺して、いかにも同情するかのように行者は言った。
「よろしい。おまえの悩みはわかった。私のちょっとした法力を使えぱ、うまくいくから心配はいらない。私のこの三叉槍で太陽を沈まなくさせることができる。 まずおまえは、高さ三十三メートルの木のてっぺんに登らなければならない。そして太陽が昇ったら、この三叉槍をいっぱいに高くあげて持っていなさい。おまえがこれをまっすぐに立てている限り太陽は沈まないだろう。」
この答えを聞いて金持ちはうれしくなって言った。
「悩みを聞いていただいた上に、大切な魔法の三叉槍まで貸していただき、お礼の言葉もありません。」
金持ちは町に戻った。
女房に話すと、女房もとても喜んだ。
次の朝、太陽が昇ると、金持ちは三叉槍を持って高さ三十三メートルの木に登り、槍を太陽に向けてかざした。今日はどんな事があっても太陽を沈ませないつもりだった。太陽はだんだん高くなっていった。そしてゆっくり降り始めた。この頃になると、三叉槍を持った金持ちの手はぷるぷる震え、痛くなり始めた。腹もすいてきた。足もがたがた震え、腹ぺこでよけいに激しく震えた。もう、槍をまっすぐに持つこともできなくなってきた。日差しは強く、空を見上げることもできない。
汗びっしょりになった金持ちは、
「いつになったら太陽が沈んで、ゆっくりと休めるのだろうか。ああそうだ。俺は太陽が沈まないようにと苦労しているところだったんだ。ゆっくり休むなんてどうしてできるんだ。ええい、沈むなら沈め。どうしたらいいんだ。」
などと、支離滅裂なことを考え始めた。
「本当にいまいましい太陽だ。沈むのにいつまでかかるんだ。」
とうとう、耐え切れなくなった金持ちは、木から降りて、すごすごと家に帰って行った。
結局、太陽はどうやっても止めることはできないということで、金持ちは悲しくなったとさ。
|